ぼくはおかしなものを見た。
住職が読経している時
ぼくは考え事をしていた。
その時だ。
誰もいないはずのぼくの横に
何人かの人が座っているではないか。
家族や親戚ではない。
まったく知らない人たちだ。
皆グレーのスーツを着て
神妙にお経を聴いている。
「誰だろう、寺の人かな?」
と思っていると、お経が終わった。
そして最後に住職が
『南無阿弥陀仏』と唱えた瞬間
その人たちはいなくなった。
あの人たちはおそらく
父の同僚なのだろう。せめて
最後くらいは参っておこうと
ご浄土から来てくれたのだ。
ありがたいことである。しかし
そういうことを母や妻に話しても
「また馬鹿なことを言うてから」と
相手にしてくれないだろう。だから
今は何も言わないでおこう。
あなかしこ、あなかしこ・・・・。