吹く風

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

長い浪人時代

上京前夜(20)

ちなみに、Y運送のバイト仲間のうち、二人はもうこの世にいない。 一人はKさんだが、もう一人はWさんという方である。 WさんはKさんの友人だった。 この方はKさんよりも早く亡くなっている。 死因は白血病だった。 一方の女性陣だが、Uさんは結婚して…

上京前夜(19)

その年の9月のことだった。 ぼくは8月中旬に一端長崎屋を辞め、その時期は博多の出版社で働いていた。 仕事から戻ると、母が「さっきUさんという人から電話があったよ」と言う。 「何の用やった?」 「さあ?何も言わんかったけど、急いどるみたいやった…

上京前夜(18)

さて、アルバイトが終わった後も、成人の日まで、ぼくはKさんと頻繁に会っていた。 それ以降はというと、Kさんも卒業や就職の関係で、あまり動きが取れなくなったのか、会うことがなくなった。 成人の日から数日して、Kさんから「赴任先が広島に決まった…

上京前夜(17)

その理由とは、Kさんのことである。 とりあえずKさんとの関係を整理しておくが、彼は当時Y大学の学生だった。 男気が強く、頼まれたら「任しとけ」という、まさに九州男児タイプの人だった。 そういう人とぼくのようなひねくれた男が、なぜウマがあったの…

上京前夜(16)

打ち上げが終わり、その数日後にバイトは解散になった。 ぼくはこのバイトで、仕事の難しさよりも、人付き合いの難しさを知った。 たったひと月半だったが、その短い期間にいろいろな事件があった。 何気ない言葉で袋だたきに遭わされそうになったり、はっき…

上京前夜(15)

○日、仕事が終わってから、ぼくたちは打ち上げ会場に集合した。 Kさんはぼくをダシに、Oさんと話している。 「こいつから『Oさんとつき合いたい。Kさん、どうにかならんかねえ』と相談受けたんよ。おれは『年上やけやめとけ』と言うたんやけどね。ちょう…

上京前夜(14)

この時、ぼくはあることに気がついた。 ぼくに「好きな人はおるか?」と聞いて以来、それまでまったく出なかったOさんの名前が出るようになったのだ。 もちろん、Kさんは勝手にぼくがOさんのことを好きと思っていたのだから、それも有りだと思っていた。 …

上京前夜(13)

告白の翌日、予想通りKさんはぼくに「昨日、どうやったか?」と聞いてきた。 ぼくは平然とした顔をして、「ふられたよ」と言った。 「ふられたか…。何と言ってふられたんか?」 「友だちならいいよと」 「そうか、友だちならいいよか。ハハハ」 「笑い事じ…

上京前夜(12)

こうなれば善は急げだ。 さそっく行動に移した。 ぼくたちの距離は300メートルほど離れていた。 そこでダッシュで追いかけた。 その間、何と言おうかと考えていた。 が、何も思いつかなかい。 「こうなりゃ出たとこ勝負だ」と思った。 そして、Oさんに追…

上京前夜(11)

もうすぐクリスマスというある日。 バイトが終わり、家に帰ろうとした時だった。 Kさんから呼び止められた。 「おい、いいかげんにOさんとカタを付けれ。このままでいいんか?」 「…うん」と、ぼくは気のない返事をした。 実は、ぼくはまだX子のことを悔…

上京前夜(10)

前にも書いたが、ぼくはOさんのことを好きだったわけではない。 ただ、Kさんから「この会社の中では誰がいいか?」と聞かれたので、Oさんの名前をあげただけの話である。 実は、その頃ぼくには、気になっている女性がいたのだ。 それは井筒屋に実習にきて…

上京前夜(9)

その運送会社にはかなりの数のアルバイトがいたが、その中で特に仲が良かったバイト仲間が5人いた。 もちろん上記のKさんも入っていた。 この5人とはよく飲みに行ったものだった。 仕事が終わると、街に繰り出す。 店が閉店になっても飲み足らず、Kさん…

上京前夜(8)

さて、積荷が終わり、ぼくたちは井筒屋に移動した。 そこでの仕事は、店から運ばれてきた多くのお歳暮を、地区別に仕分けすることだった。 各地区に番号が振られていて、それをベルトコンベアから流れてくるお歳暮ひとつひとつに書き込んでいく。 それが大変…

上京前夜(7)

数日後、運送会社でのアルバイトが始まった。 初日、会社に着くと、ぼくはさっそく面接をした人(常務)のところに挨拶に行った。 「おはようございます」 「ああ、おはよう」 「よろしくお願いします」 「うん。ところで、この間のよくしゃべる人は、家庭の…

上京前夜(6)

一方の友人は、ぼくと同じ質問に対して、「私はいろいろと都合がありまして、いつかと聞かれても困るんですが、今やっていることが終わり次第、参加させてもらおうと思っています」と答えていた。 彼は高校時代、そうしゃべる方でもなかったし、こんな回りく…

上京前夜(5)

工事は1週間ほどかかった。 工事の最後の日、おっさんは母に向かって、「いやー、大変な工事でしたよ」と言った。 母が「息子は役に立たなかったでしょ?」と言うと、おっさんは「ぼっちゃんもそこそこやってくれましたよ。まあ、ほとんど私一人でやったよ…

上京前夜(3)

さっそく母はガス屋に電話した。 そして翌日、ガス屋のおっさんがやってきた。 何でもこのおっさんが工事をするというのだ。 最初にその話をした時に話だけで終わっていた見積りをやり、あらかたの金額が出た。 金額を聞くと、何とかぼくのバイト料でまかな…

上京前夜(2)

中国展でのアルバイトが終わり、ぼくはボンヤリとした生活を送っていた。 1ヶ月半のバイト期間中、一日も休まず働いた疲れが出たのだ。 アルバイトの二日酔い状態と言ったらいいだろうか。 しばらくぼくは、何もやる気が起こらなかったのだ。 その中国展で…

上京前夜(1)

「ああ、ぼくの青春は恋と歌の旅、果てることなく…♪」 吉田拓郎の『準ちゃんが吉田拓郎に与えた偉大なる影響』という、長ったらしいタイトルの歌の一節である。 高校時代、拓郎に憧れていたぼくは、当然のように、この歌詞と同じ道を歩むことになる。 とにか…

9月の思い出 その9(完)

宿に着いたのは午後9時を過ぎていた。 実に8時間歩き通したのだった。 宿に着くと、デスクSが待っていた。 「こら、しんた! こんな時間まで何やってたんだ」 「歩いて帰ってきました」 「どこから」 「荒尾からです」 「荒尾からだとぉ? なぜ電車で帰っ…

9月の思い出 その8

【『ふるさとの土をいじる』 陶芸家 ○○さん 彼は学生の頃に陶芸に魅せられたという。 卒業後、他の学生と同じようにサラリーマンになったものの、陶芸を諦めきれずに脱サラ。ある陶芸家に弟子入りした。 「食うていけるかどうかわからんかったけど、これがお…

9月の思い出 その7

その夜、デスクSから散々小言を言われた。 「お前、一日何をやってたんだ?」 「ちゃんと電話でアポイントを取ってました」 「で、何件当たりがあったんだ?」 「残念ながら、今日は1件でした」 「どういうところだった?」 「お寺です」 「感触は?」 「…

9月の思い出 その6

この会社に入社して3週間が過ぎた。 4週間目の日曜日に、いよいよ初めての出張に出かけることになった。 総勢十数名での出張だった。 行き先は、先にぼくが電話帳を盗みに行った熊本県北部で、引率は予定通りデスクSが行った。 その日の午後、西鉄福岡駅…

9月の思い出 その5

さて、研修期間が終わり、いよいよ活動開始となった。 まずは手始めに、福岡市内の魚屋をあたれという指示が出た。 朝から電話をかけまくった。 もちろんマニュアル通りに話さなければならないのだが、ぼくは無視してぼくなりの言葉で話した。 「月刊○○のし…

9月の思い出 その4

そういえば、電話帳で思い出したのだが、研修がすんでしばらくたってからのこと。 午後4時半頃だったろうか。 デスクSが突然、「おい、しんた」とぼくを呼んだ。 「何ですか?」 「今度、熊本県の荒尾方面に取材に行くことになった。そこで、今から電話帳…

9月の思い出 その3

この会社は福岡市にあった。 自宅から折尾駅まではバスで、折尾駅から博多駅までは国鉄で、そこから会社まではバスか、当時まだ走っていた路面電車で通っていた。 時間にしてだいたい1時間程度だったが、料金が馬鹿にならなかった。 往復すると2千円はかか…

9月の思い出 その2

それから1週間は研修期間だった。 デスクと呼ばれる人たちが、入れ替わりでぼくたちの教育をした。 そこでいちおうライターの心構えなどを習ったが、何かわざとらしく感じたものだった。 「フリーライターとは、振りをするライターのことだ。その振りをする…

9月の思い出 その1

『救いのない夜』 何がぼくを変えたのですか。 一人の陶芸家ですか。 たわいのない夢ですか。 力のない口ぶりですか。 君への焦りですか。 納得のいかない仕事ですか。 金のないつらさですか。 退屈な日々の仕業ですか。 変に気取ったあの人たちですか。 夜…

長崎屋の思い出 6

一日休んだことで、張り詰めていた糸が切れてしまった。 「エアコンはもう終わったな」という思いでいっぱいだった。 翌日からヘルパーの人員整理が始まった。 まずボンが去った。 元々フロアー長から嫌われていたので、メーカーのほうも受け入れ先を早々と…

長崎屋の思い出 5

ラジカセ売場にいたのは、5月から7月中旬までだった。 その間もフロアー長とヘルパーの確執は続いていた。 フロアー長は以前からいるヘルパーを一人一人商談室に呼び出し、面談していった。 以前のフロアー長の息のかかった者に、忠誠を誓わせるのが目的だ…