1,
三日月ではない。かといって
半月ではない月が出ている。
あごのしゃくれた人の
二次元的な横顔のようで
乱視が入っているぼくには
その人の目や鼻まで見えている。
十数年前に友人と深夜の
ドライブを楽しんでいた時のことだ。
山道を走っていると、えらく長い距離
街灯の途切れている場所があった。
そこでぼくは以前から試したかった
真っ暗体験をやりたくなり
車のエンジンを止め、ライトを消した。
その日は月も星も出てなかったから
本当に真っ暗だった。
とにかく鼻の先が見えないのだ。
そういう時というのは
なぜか息苦しさを感じるものだ。
人間は真っ暗な中に置かれると
絶望の淵に立たされたような気分になり
死にたくなるのだそうだが
そういう気持ちもわかる気がした。
それゆえに創造者は天上に
月や星を輝かせ
人を死なないようにしたのだろう。
2,
三日月ではない。かといって
半月ではない月が出ている。
あごのしゃくれた人の
二次元的な横顔のようで
乱視が入っているぼくには
その人の目や鼻まで見えている。
乱視といえば一昨日のこと
車を走らせていると
道路工事の赤信号にかかった。
仮設信号機の待ち時間を見ると
『114』になっている。
「114秒も待つんか」と思いながら
携帯電話を触っていると
そんなに時間も経ってないのに
後続車がクラクションを鳴らす。
「えっ、まだだろうが」と
信号機を見てみると
すでに青に変わっていた。
実際は14秒だったのが
乱視のせいで『1』が
二重に見えたわけだ。
以前もこんなことがあった。
もしかしたらぼくの乱視は深刻に
なっているのかも知れない。
放っておくと対向車線の車がダブって
こちらの車線を逆走してくるように
見えるかもしれないな。とはいえ
メガネをかけようとは思わない。
そうなったらそうなったで
楽しめそうな気がするからだ。