『君の街』を書いたのは
二十九年前の夏のお江戸だ。
行方知らずになっていた
一人の女性を思いながら
食うや食わずの生活を送っていた。
当然痩せてはいたけれど
夏バテすることはなかったし
猛暑日だって熱帯夜だって
扇風機ひとつでしのいでいた。
痩せた体も若さのせいで
厳しい生活に順応したのだろうか
汗の出にくい体質になっていた。
おかげで風呂代を浮かせたし
洗濯代も節約できた。だけど
不潔な生活を続けたせいで
秋には皮膚を患った。
とはいえ『君の街』を書いた
二十九年前の夏のお江戸で
ぼくは何とか生きていた。