ぼくが今いる業界に足を突っ込んだ二十代前半、同じくこの業界でアルバイトをしている高校の同級生がいた。彼はぼくが勤めている職場から1キロ程離れた競合店で働いていた。
初めてその店に市場調査に行った時に、ぼくは彼を見つけ、
「あ、○○やん。久しぶりやね」
と声をかけた。すると彼も、
「おお、しんたやないか?」
と懐かしがっていた。以来そこに行くたびに親しく言葉を交わしたものだった。
彼はぼくと会ってから3ヶ月ほどしてそのバイトを辞め、その後業種の違う会社に就職した。ちなみにぼくは、そのままこの業界に残り、今に到っている。
就職してから数年後、彼は資産家の娘を嫁にもらい、嫁の実家の会社に転職し、身内ということで重役になり、高級住宅地と呼ばれている場所に住むようになった。
そんな彼と再会したのは、それから十数年たってからだった。当時ぼくが勤めていた店に彼がやってきたのだ。
彼の来店に気がついたぼくは、思わず、
「あ、○○やん、久しぶりやね」
と以前と同じように声をかけた。ところが彼は笑顔も浮べず、ぼくに、
「あんたここの店員?」
と他人行儀に言った。
「そうやけど」
「じゃあ、それちょうだい」
と、レジ前に展示していた商品を指差した。
その商品を準備している最中、ぼくが、
「元気しとった?」
と親しげに聞いたのだが、彼はその問いかけには答えず、
「ねえ早くしてくれん?」
と言ったのだった。
笑顔も見せず、人を見下したような態度をとる彼に、多少ムカついていたのだが、その言葉を聞いてぼくは対応を変えた。友だちモードからお客さまモードに切変えたのだ。最初は多少の値引きにも応じようと思っていたが、それもやめた。
「○円になります」「ポイントカードはお持ちですか?」「ではX円のお返しですね」「ありがとうございました」
彼はサッサと帰って行った。もしかしたら本当に急いでいたのかもしれないが、それにしてもねえ・・・・。
後日、その話を共通の知人にしたことがあるのだが、その時その人も彼に同じような態度を取られたと言っていた。
重役になると、人との接し方や応対の仕方が、変ってくるものなのかなあ。寂しいものですね、お客さま。