吹く風

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

気配3

【5】

 昭和58年春。二階長屋を多層階の団地にするというので、一時的に引っ越すことになった。階段の謎を解き明かそうと思い、取り壊している家を何度か訪れた。しかし、気配の正体は姿を現わさなかった。



【6】

 昭和59年春。建て替えが終り、新しい団地に移る。それ以来、ぼくと母は頻繁に金縛りに遭うようになる。



【7】

 昭和61年。二階長屋時代にぼくの家があった場所は、建て替え後駐車場になっていた。そこでの話だ。



  一人のじいさんがやってきて、

  おもむろに塩を撒き始めた。ぼくが

  「何をやっているのですか?」と尋ねると

  「あんたには見えんのですか?」と言った。

  そのじいさん、一ヶ月後に死んだらしい。



【8】

 昭和62年。その年の夏、ある誤解が原因で上司に疎まれ、左遷の憂き目に遭う。涼しい内勤部署からクソ暑い外回り部署に異動になったのだ。



  ぼくは、死神から何度か命を狙われたことがある。

  最初にぼくの前に現れた死神は、からし色の袈裟を着た、ドクロだった。

  彼は、そのへんにいた死霊を集め、ぼくをその世界に誘い込もうとした。

  ぼくは般若心経を唱え、必死に抵抗した。

  すると、金縛り状態は解け、いつもの場に戻った。

  しかし、場に戻った時、呼吸は乱れ、心臓は高鳴っていた。

  金縛りに遭っている最中、おそらくぼくは死んでいたのだろう。



 その外回りの途中、昼食をとりに家に帰った時のことだ。食事の後、しばらく部屋で横になっていたのだが、そこで金縛りに遭ってしまった。金縛りに遭うのは夜だったから、昼間の金縛りは初めてだった。その金縛り中、ぼくの目に飛込んできたのは大勢の子供たちだった。彼らは一様に戦時中のような大きな名札を胸に着けていた。『何だろう』と思っていると、からし色の法衣を着た坊さんが出てきた。そして「供養しましょう」と言った。お経を唱えている坊さんがこちらを向いた時、ぼくは恐怖を感じてしまった。坊さんがドクロになっていたのだ。

 先のモンペ婆さんもそうだったが、それまで家で見た霊は、みな戦時中の装いなのだ。もしかしたら、戦時中この場所で何かがあり、その時の被害者(?)たちが、気配の主になったのかも知れない。