昨日、喫茶店『黄昏』のある場所には何かがあると書いたが、確かに何かがあった。それはロマンや人生の侘び寂びではなく、もっとドロドロとしたものだった。
小倉駅前には、『黄昏』他いくつかの喫茶店があった。後年それらの喫茶店をマルチ商法や電話勧誘、キャッチセールスの人たちが、職場として利用するようになったのだ。
会社帰りにまだ付き合っていた頃の嫁さんと、その辺りの喫茶店で食事をしていた時、そういう人たちと遭遇したことがある。ある気弱そうな女性を、そのスタッフらしい女性が連れてきて、いろいろと説明を始めた。
およそ三十分後、話が難航していた時だった。なぜかその席の横で談笑していた三名の男性客がその席に移動し、女性スタッフをフォローし始めた。
彼らは、彼女が女性を連れて来る前からその店にいた。おそらく彼女が入って来た時に、目配せして彼らの横の席に誘導したのだろう。そして話の内容を一部始終聞いていたわけだ。これでは逃げられない。結局その気の弱そうな女性は、引きつった笑顔で契約を交わしていたのだった。
契約後、何とその後ろの席に座っていた男性客が立ち上がり、気弱そうな女性に向かって「ありがとうございました」と言ったのだ。彼も一味だったわけだ。さらにその時店に入ってきた男性客が、その後ろの男の席に行きに、小声で「決まったか?」というようなことを聞いていた。
思うに、まず最初の女性スタッフでダメな場合は横の席の男性たちが、その男性たちでもダメな場合は後ろの席の男性が、最後の砦が後から入ってきた男性だったのだろう。一度見込まれたら、二の矢三の矢が放たれる仕組みになっていたのだ。おそらくそれでダメでも、家や会社への電話攻撃を用意していたのだろう。その手の商売に対する法律が完全ではなかった当時は、よほど本人がしっかりしてないと、この攻撃から逃れる術はなかったのだ。