吹く風

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

街の灯

   ほんのひとときの黄昏が今日のため息をつく

   病みつかれたカラスたちが今日も帰っていく

    昔描いた空は消えはてて

    さて帰る場所はあったんだろうか

   琥珀色の時の中で街の灯は浮ぶ



 ぼくは昭和52年の秋に、地元小倉でアルバイトをしていた。帰るのはだいたい午後6時頃で、小倉駅前は帰宅途中のサラリーマンや学生でごった返していた。

 その駅前に当時、『黄昏』という喫茶店があった。その店の前の街灯で立ち止って、空を見ている40代くらいの人を時々見かけた。おそらく人待ちをしていたのだろうが、その後ろ姿が、なぜか寂しそうに見えたものだった。



 その翌年ぼくは東京にいた。たまたま中野駅前に立ち寄った時に、同じような人を見かけたのだ。既に小倉のことは忘れていたが、その人を見て小倉の当時を思い出した。『そういえば風景は違うけど、夕方の雰囲気は小倉に似ているな』と、ぼくはその一年前を懐かしんでいた。その懐かしさを下宿に持って帰り、この詩を書いたのだった。



   明るい日ざしの中でも笑わないカラスが

   すすけた街の灯を見つめては笑う

    昔描いた空は消えはてて

    さて寂しくはないんだろうか

   堪えきれない切なさに街の灯は浮ぶ



 さて、それから数年後、ぼくはその小倉の街で働くことになる。もちろんアルバイトではなく、企業の正社員としてだ。毎日毎日帰るのが遅くなる仕事だったが、たまに早く帰ることもあった。そういう日はなぜか喫茶店『黄昏』前で立ち止り、空を見上げていたものだった。やはりあの場所には何かあるのだろう。