クモはかつてここで居候していた。
セミはおそらく幼なじみだったはずだ。
トンボには小学生の頃良くしてもらった。
バッタは取っつきにくいが根はいい奴だ。
カナブンは生涯ぼくの子分にしている。
このマンションに越してきて、いろいろなお客が訪れた。だが、、そのほとんどが上記のようなかつての友だちで、殺意を感じるようなお客は滅多に来ない。
ところが今日、久しぶりに殺意を覚えるお客が、この家にやってきた。ぼくの記憶が正しければ、彼がこの家に来たのは二度目になる。
風呂から上がってリビングでくつろいでいると、ぼくの部屋方向から嫌な気配を感じた。「もしかしたら彼かも」と、その気配のする方向に目をやった。
やはりそこには彼がいた。ぼくはテーブルの上に置いてある新聞紙を丸めて、素速く身構えた。そして息を潜め、嫌な気配を発している黒くてツヤのある、体長が五センチ近くある彼の体に近づいた。
だが、ぼくの殺気に気づいた彼は、書棚の裏に続く細い道を足早に逃げだした。そこに所狭しと山積みした、ぼくが大切にしている本やCDなどが、皮肉にもぼくの新聞紙攻撃から彼の身を守ることとなった。
このままだとこの家の中に、もう一つの家族が出来てしまう。焦ったぼくは、前に彼の仲間がやって来た時に、買い置きしていた赤い缶のスプレーを取り出し、書棚の隙間が煙で埋まるまで振りかけた。
それから数分後、ヨタヨタしながら彼が出てきた。ぼくは先ほど丸めた新聞紙を再び手にとって、彼のボディに一撃を喰らわした。グロッキーになった彼をその新聞紙の上に載せ、トイレまで運び、便器の中に投げ込むと同時にそのまま水を流した。彼の体は渦にもまれて、そのまま下水道へと流れて行った。
これでまたこの呼ばれざる客は、数年姿を見せないことだろう。