若い頃から心の重しになっていたのが白髪頭で、鏡を見るのも嫌だった。最初の頃こそ切ったり抜いたりしていたが、だんだんそれでは追いつかなくなった。
そこで健康雑誌を読みあさり、シャンプーを変えてみたり、アロエを頭皮に塗ってみたり、粗塩で髪を洗ってみたり、きなこドリンクを飲んてみたりと、そこに書いてあることをいちいち実践して改善を試みた。
だけど、ぼくには効果がなく、ヤケになって白髪染めに手を出した。それがいけなかった。染料が肌に合わなかったのだ。それまでは部分的にしかなかったのに、染めていくうちに頭全体に広がって、結局真っ白になってしまった。
万事休すだ。
ところが、そこから気持ちに変化が起こる。いったん真っ白になってしまうと、「もうどうでもいいや」という気分になってきたのだ。
それから世界が一変した。あれだけ嫌だった白髪頭が、だんだん誇らしく感じてきたのだ。自分の気持ちが変わると、他人の見方も変わってきて、それまで同世代、いや年上の人からも「白髪ジジイ」なんて呼ばれていたのが、二十代、いや十代の人からも、
「髪の色、カッコイイっすね」と言われるようになった。
そうなると調子に乗るタチのぼくは、『しろげしんた』というハンドルネームまで創ってしまった。
今では「自分の本当の人生は、頭が真っ白になってから始まった」とさえ思うようになっている。