「ここから落ちたらどうなるんだろうか。
少なくとも捻挫はするだろうな」
そんなことを考えながら脚立の上に乗っていると
なぜか怖くなった。そのうち怖さが怖さを呼んで
急性の高所恐怖症になってしまった。
そうなってしまうと足が震えて仕事が手につかない。
その時だった。数十年前の記憶が蘇った。
中学生の頃、ぼくは友だちとよく学校を抜け出していた。
抜け出すには2メートルちょっとの高さのある
石垣を飛び降りなければならなかった。
足は底の薄い上履き、もしくは裸足だ。
だけどその時は「ここから飛び降りたら・・」
なんて考えなかった。
ただ早くそこから抜け出したかったんだ。
それがよかったんだと思う。
早く抜け出したいという強い気持ちが
恐怖心を吹き飛ばしてしまい、飛び降りる時に
無心でいられたわけだ。そのおかげで
「少なくとも捻挫」すらしなかったんだと思う。
そうだ。ここから落ちそうになった時は
落ちまいと無理に力まないようにしよう。
「学校を抜け出したい」という気持ちを蘇らせて
思い切って飛び降りてみることにしよう。
『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』という
言葉もあるくらいだ。よしそうしよう。
そんなことを考えていたら同僚から
「いつまでやっているんだ」と文句を言われた。
その瞬間ぼくは脚立から飛び降りた。