小学生の頃ぼくは怒ることのない子だった。
他人から叩かれても意地悪されても
まったく怒ることはなかった。
決して気が弱かったわけではない。
怒りがこみ上げることがなかったのだ。
「なんで怒らないのか」とそのことで
友だちから不思議そうな顔をして問われても
『こいつ変なこと聞くなぁ』と友だちの顔を
不思議な気持ちで見ていたものだった。
それが変わったのは
中学生になった頃からで
あまりに周りが変なことを聞くので
怒らないと何か損したような気がして
無理して怒るようになったのだ。
それがだんだん癖となっていき
社会に出てからは、いつもいつもいつも
怒ったり、怒った顔をしていたりして
けっこう怖い人だと噂されるようになった。
だけど何かが違っていたんだな。
怒ったあとの気分は最悪だったし
その日はロクな目に遭わなかったし。
怒った顔のために暗い人と言われたり
やはりぼくには怒りは似合わなかったのだ。
ということで、四十代半ばでぼくは
ようやく本来の自分に気づいたのだった。
とはいえ三十年怒り続けた癖というものは
そう簡単に抜けるものではない。
徐々に本来の自分に戻っていくしかない
と心に決めて十年近くが経つ。