吹く風

いろんなことに悩む暇があったら、さっさとネタにしてしまおう!

酒癖の悪い男

以前勤めていた会社に、えらく酒癖の悪い男がいた。

普段は腰が低く、年上のぼくに対して、決してタメ口を利くような人間ではなかった。

ところが一滴でも酒を口に入れると、この男はダメだった。

つい五分前まで腰低く敬語を使っていた人が、突然意味もなく胸ぐらをつかんでくる人になるのだ。

その時「何か悪いこと言ったかなぁ?」と、ぼくはけっこう気にしていた。

そのことをある人に言うと、「ああ、あの人、ちょっと酒を飲んだだけでああなるんよ」と、その人は教えてくれた。

その豹変があまりにショックだったので、それ以来ぼくはシラフの時以外の彼に近づかなくなった。



さて、彼の酒癖の悪さを知ってから数年後、彼はぼくたちの前から突然姿を消した。

風の噂では、酒を飲んでいる時に、遊び人風の男にからんでしまい、ボコボコにされ、そのために長期入院を余儀なくされたということだった。

彼の身近な人も、同じようなことを言っていたので、きっと噂は本当だったのだろう。



それからまた数年が過ぎた。

つい先月の話だ。

同級生との飲み会があった。

その中で酒癖の悪さが話題になったのだが、その時ぼくは例の男の話をした。

「…そいつボコボコにされて、長い間入院しとったんよ」

すると、同級生の一人が「おれもそういう人間知っとるよ」と言う。

「そいつもお前の話の人と同じように、ボコボコにされて、長い間入院しとったんよ」

「ふーん、酒癖の悪い奴には、似たような話がついてくるもんやの」

「そうやの。そういえばあいつの名前なんやったかなぁ…。あ、そうそうHSという名前やった」

「えっ、HS?おれの知っとる奴もHSよ」

話を進めていくうちに、それが同一人物だということがわかった。



世間は狭いと言うべきなのか、酒癖の悪い人間はそうそういないと言うべきなのか。