3週間を過ぎた頃だった。
午前中の作業を終えて手袋を外した時、どこからともなく臭いがしてきた。
「ん?何か懐かしい臭いだ」とは思ったが、その時は気にならなかった。
ところが昼食時に、その臭いがだんだん強くなってきた。
そこでいったん食事を中断し、臭いの根源を探ってみることにした。
まず身の回りのものをチェックしてみたのだが、臭いはそこからするのではなかった。
「もしかして足か?」と靴を脱いでみたが、そこでもない。
そうこうしているうちに、臭いは消えた。
「やはり気のせいか」と思い、また箸を持って弁当を食べようとした。
その時だった。
またしても臭いがしだしたのだ。
どうも臭いは手から発しているようだ。
だが、手のひらは臭わない。
「もしかしたら」と、今度は指を嗅いでみた。
ここだった。
それがわかると同時に、懐かしい臭いのことも思い出した。
上履きの臭いである。
「しかし、何で指が臭くなるのだろうか」
考えてみたら、思い当たる節がある。
手袋の素材は綿とゴムである。
そう、上履きの素材と同じなのだ。
汗で蒸れたせいで、小学生の頃と同じように、中が腐ってきたというわけだ。
ということで、食事が終わってからさっそく手を洗い、そのついでに手袋も洗った。
手袋の中に水を入れると、黒いカスが浮いてきた。
手袋を裏返すと、思った通りで、中は思った通りボロボロになっていた。
そこで新しい手袋を買いに行ったのだが、そこには同じ手袋しか置いてなかった。
「これもまた2週間しか持たんよなあ…。結局は高いものについたわい」
と思いながら、ぼくはその手袋を買ったのだった。