店で困った問題が起きている。
ぼくの働いている店は、2Fが駐車場になっているのだが、最近そこがゴミ捨て場になっているのだ。
昨日の朝、ぼくがいつものように2Fの駐車場の鍵を開けに行ったところ、市の指定のゴミ袋に入ったゴミが捨ててあった。
もはやカラスに荒らされた後なのか、ゴミはいたるところに散らばっていた。
清掃のおばちゃんがさっそく駆けつけ、「何もこんな所に捨てんでも、よさそうなものなのに。ちゃんと指定日に出せ」などと、ブツブツ言いながら片付けていた。
これまでも、タバコの吸殻を大量に捨てていたり、コンビニやホカ弁の袋にゴミを包んで捨てていた例はあるが、今回のような本格的なゴミは初めてのことだった。
さて、今日の話である。
午前中わりと暇だったので、テレビでオリンピックを観戦していた。
そこに隣の売場のTさん(女性)がやってきた。
「しんたさん、手が空いてたら、ちょっと来て欲しいんやけど」
何だろうと聞いてみると、「お客さんが、2Fの駐車場に不審な箱が置いてあると言ってきたんよ。行って欲しいんやけど」と言う。
ぼくはそれを聞いて、すぐさま頭の中で「不審な箱」を検索してみた。
検索結果は「爆発物」であった。
おそらく最近「不審な箱」と聞いて、「爆発物」を連想しない人はいないんじゃないだろうか?
ちょうど通報したお客さんも一緒にいたので、詳しい話を聞いてみた。
「何かゴソゴソ動いているんです」と言う。
そこでまたぼくは、頭の中で「不審な箱 ゴソゴソ動く」を検索してみた。
「動物」という結果が出た。
さらに検索していくと、「子犬、猫、ネズミ、ヘビ、イグアナ・・・」という結果が出た。
「さて何だろう?」ということで、現場に向かった。
現場に着いてみると、そこには一升ビンが6本ほど入る月桂冠の段ボール箱が置かれていた。
封は開いていたが、ビニールのひもでくくってあった。
中身が何か確認しなければならない。
そう思ったとたん、心臓が高鳴りだした。
考えてみれば、こういう役回りはいつもぼくにやってくる。
人が倒れていた時も、酔っ払いが暴れていた時も、いつも汚れ役だ。
「損な運命を背負っとる」と思いながら、ひもをずらして箱のふたに手をかけた。
心臓は相変わらず高鳴っている。
「待てよ」
ぼくはふたから手を離し、顔を箱に近づけ、犬や猫を呼ぶ時のように、舌を鳴らしてみた。
「チ、チ、チ」
「・・・」
「チ、チ、チ」
「・・・」
反応はない。
「しかたない。開けるか」
もう一度、ふたに手をかけた。
「いや、待てよ」
また手を離し、今度は箱を軽く蹴ってみた。
「・・・」
もう一度蹴った。
「・・・」
反応がない。
「しかたない。開けるか」
再度、ぼくは箱のふたに手をかけ、「損な役回りやのう。もうどうにでもなれ!」と思いながら、片方のふたを開けた。
「!?」
中には、何かビールケース、いや牛乳ケースのようなものが入っていた。
中を覗いてみたが、暗くてよくわからない。
におってみると、やはり何か生き物が入っているのだろう。
糞のような臭いがした。
ケースの前にたたずんでいたが、どうしてもその牛乳ケースのようなものに触る気がしない。
触れたとたんに「バーン」となるかもしれない。
ヘビが出てきて、手を噛み付くかもしれない。
いろんな思いが、ぼくにケースを触らせようとしない。
このままそこにいても埒が明かないから、ぼくは箱を閉じ、それを1Fの事務所前の商品搬入口まで持って行くことにした。
抱えてみるとそれほど重いものではなかったが、いつ「バーン」と鳴るかと思うと、あまりいい気持ちはしなかった。
搬入口に着くと、ちょうどそこには店長代理がいた。
「しめた」と思い、「この箱が2Fの駐車場に放置してあったんですけど」とぼくは言った。
「何それ?」
「さあ?中に牛乳のケースのようなものが入ってるんですけど。それに何か生臭い」
「そこに放っとき」
「そういうわけもいかんでしょう」
「じゃあ、開けてみようか」
ということで、二人で開けてみることにした。
ひもをカッターで切り、ふたを全開した。
しかし、やはり中が暗くてよく見えない。
代理が懐中電灯を持ってきて、箱の中を照らしてみた。
「あっ!」
愛くるしい目がこちらを見ている。
黄土色の小動物、イタチである。
ぼくはイタチが街中を駆けていくのを何度か見たことがあるが、こうやってじっくり顔を拝むのは初めてのことだった。
牛乳ケースのようなものは、罠であった。
足を挟まれて動けなくなっているようだ。
よく見ると、足が一本取れ、血が流れている。
代理とぼくは顔を見合わせて、「どうしようか」と言った。
「死んどったら、生ゴミとして出すことも出来るけど、生きとるしねえ」
「離したら、一発かまされるやろうし。警察に届けましょうか?」
「いや、イタチぐらいで警察は来んやろう」
「でも、不法投棄ということで、一応知らせとったほうがいいんやないですかねえ」
「あ、そういえば、ネズミ駆除とかする所を知っとるけ、聞いてみよう」
代理はさっそく電話をかけた。
「今日の夜、引取りに来てくれるらしいよ。黒い袋で包んどってくれと言うことやった」
そこで店にあった黒い袋で包んだ。
「このままじゃ、不審がられるけ、一筆書いときましょう」とぼくは言い、“中には、罠にかかったイタチが入っています”と白い紙に赤字で書き、その箱に貼っておいた。
夜になって、業者がイタチを引き取りに来た。
「しかるべき場所に捨ててくる」ということだった。
これで、一応この事件は解決したわけである。
が、問題はまだ残っている。
だいたいどこのどいつが、この箱を放置していったんだろう?
自分で捕まえたのなら、自分で始末しろ!
そういう処理の仕方も知らない、スーパーの駐車場に放置して何が面白いんだろうか。
生ゴミでもうんざりしているのに、もういいかげんにしてもらいたいものである。
常識をわきまえろ!!
さて閉店後、今日用があって休んでいた店長からぼくの携帯に電話があった。
店「終わった?」
し「今から閉めます」
店「今○○店におるけ、そこに売り上げ流すように代理に言うとって」
し「わかりました。そう言えばいいんですね。ところで、今日大騒動があったんです」
店「え?」
し「不審な箱が2Fの駐車場に放置してあって・・・」
店「何が入とったん?」
し「それが大変なものやったんです」
店「警察呼んだ?」
し「いえ、呼んでませんけど」
店「何やったんね?」
し「今日は言えません。明日言います」
と、ぼくは電話を切った。
店長は気になって、今頃眠れないでいるだろう。