小学生の頃、よく「ハゼ負け」をしたと言っては、白い薬を肌に塗りまくっている子を何人か見かけた。不思議なことに、ハゼ負けするのはいつも同じ子なのだ。
「そんなにしょっちゅうハゼ負けするくらいなら、ハゼの木に近づかなければいいのに」
と、ぼくは思っていた。
ずっと後に、当時みんなが「ハゼ負け」と言っていたのは、実はハゼ負けではなくアトピーだということをある人から聞いた。そういえば、当時ハゼ負けする子の肌は、今でいうアトピーの肌質だった。
その頃、『アトピー』という言葉が一般的ではなかった。そこで、大人たちは子供の「なぜ、あの人の肌にブツブツがあるのか?」という質問に答えるため、わかりやすく「ハゼ負け」と言っていたのかもしれない。
とはいえ、その頃、その大人たちでさえも『アトピー』という言葉を知らなかったはずだから、本気で『ハゼ負け』と思っていたのかもしれないが。