ぼくの家のそばに、そこそこ幅のある川が流れている。今でこそ魚が跳びはね、それを鷺がジッと狙っているような、自然を象徴する川になっているが、かつては魚も住まないような、それはそれは汚い川だった。
ま、そのことはさておいて―。
二十年ほど前まで、その川に沿ってもうひとつ、狭い川が流れていた。汚い川に輪をかけたようなドブ川で、何とも形容しづらい臭いを放ち、黒いヘドロの上に奇妙な色の液体が泡立ちながら浮かんでいた。それを初めて見た時、ぼくは吐き気を催したほどで、さすが死の海と呼ばれていた洞海湾に注ぐ川だ、と思ったものだ。
ところが海と違ってその川は死んではいなかった。実はそこにはちゃんと生物が生息していたのだ。その生物は夏になると一斉に「ゲーコ、ゲーコ」と鳴き出した。
そう、カエルである。生息する場所が場所だけに、案外奇形種だったかもしれない。だけど場所が場所だけに、そこでカエルを捕るような子供もいない。だからそれはわからない。
さて、そういうゲーコの声にかき消されてはいたものの、ショッカン(ウシガエル)の牛の鳴くような低い声もそこにはあった。
ぼくが中学生の頃だった。近所のおっさんが、床屋のばあさんに、
「この間、ショッカン捕まえてきて食べたんやけど、焼き鳥みたいな味がしてうまかったばい」
と言っているのを聞いた。
どこで捕まえたとは言ってなかったが、ぼくの脳裏にあのどぶ川の何とも形容しづらい臭いと、奇妙な色の液体が瞬時に浮かんだ。そしてゲーコと吐き気を催したのだった。