社会に出てから四十年以上経つ。ずっと流通業に携わってきたわけだが、現在働いているところは、家から歩いて行けるくらいに近い場所にある。ここまで近いのは初めてだ。一時間以上もバスや電車に揺られ、最後は走って職場まで通っていたのがうそのようだ。
さて、地元だからということでもないのだろうが、見知らぬお客さんから
「あんた、この辺の人やろ?」
と聞かれることがよくある。
「よくわかりますね」
と言うと
「そういうニオイがプンプンするんよね」
とその方は言う。
さて、そういうニオイとは、いったいどういうニオイなんだろうか。
地元出身の高倉健さんを見て、
『この地域特有の雰囲気がある』
と思ったことがあるが、それと同じことなのだろうか。
ぼくは健さんのような渋い男ではない。いつも人からボーッとしているように見られる、損なタイプの男だ。
さて、そこで疑問に思うことがある。その見知らぬお客さんには健さんのような渋いタイプの男も、ぼくのようなボーッとタイプの男も、いっしょのニオイがするのだろうか。今度聞かれたらぜひ尋ねてみたい。