しかしそのことで、ぼくは沖縄を嫌いにはならなかった。あの晩のことを除いては、いい思い出ばかりだったからだ。最初に言ったとおり、風土も匂いもぼくに合っている。
「今度来る時は、民謡酒場のある場所をちゃんとチェックしておこう。そこ以外には絶対行かん」
そのことを肝に銘じた。
さて翌年、前年と同じく社員旅行は沖縄だった。
「今度こそ民謡酒場に行くぞ」、と意気込んで那覇の街に出た。その時は5人で行動した。
那覇港にあるステーキを食べに行って、いよいよ松山の民謡酒場に行くことになった。しかし、場所がはっきりしない。1時間ほど探したが、それらしき店は見当たらない。
「もう時間がないけ、他のところに行こうや」と一人が言った。
ぼくも民謡酒場に未練は残ったが、こうやっていても埒が明かないので、その意見に従った。
「じゃあ、どこに行こうか?」
すると、一人の後輩が
「さっき、いい所がありましたよ」と言った。
じゃあ、そこに行こう、ということになった。
後輩はさっさと先頭を歩き、ある店の前で止まった。
「ここです」
唖然とした。ぼくらは後輩に文句を言った。
「お前、沖縄に来てまで、こんな所に来んでもいいやろ。小倉で見ればいいやないか」
「いいじゃないですか。時間もないことだし。付き合ってくださいよ」
後輩の言うとおり、時間がない。しかたないので、後輩に付き合うことにした。
その店の看板には、『本番、まな板ショー』と書いてあった。そこはどこにでもあるストリップ小屋だった。
翌年の社員旅行も沖縄だった。夜になり、何人かの人が「しんちゃん、遊びに行こうや」と誘いに来た。しかし、二年連続で後味の悪い思いをしているぼくは、夜の沖縄には行く気がしなかった。
「行かん」と言って、すべて断った。
夜は寝るためにあるものだ。それを沖縄旅行は教えてくれたのだった。