顔は見たことがある。声も似ている。背の高さもだいたいそんなものだったろう。ということで、おそらくその人なのだろう。だけど、声をかけられないでいる。
一点だけ引っかかることがあるのだ。彼のデブな体型だ。ぼくの知っている人は
そんなにデブではなかった。確かに、ぼくの中にあるその人のイメージをすこーし横に広げれば、今すれ違った人になるかもしれない。
しかし世の中そんなに甘くない。そういう思い込みで声をかけて、人違いだったことが何度もあるのだ。
そこで思う。仮にその人だったとして、声をかけるほどの仲だったろうか、と。
そういえばそうだ。確かにその人とは喋ったことはあるが、決して街中で声を掛け合うような、そんな関係ではなかったと思う。
もし声をかけたとしても、その後の会話が続かないのではないか。それなら最初から知らないふりをしていたほうが、お互いに気まずい思いをしなくてすむ。
そうそう、彼はその人ではないんだ。会ったこともない知らない人なんだ。それでいいじゃないか。
「あのー」
「えっ?・・・・」
「たしか、しんたさんですよね」
「・・あ、はい・・・」